金環日食観測チームB

(ベイリービーズ拡大観測チーム)


写真:金環日食時のベイリービーズ
1987年9月23日 沖縄金環日食における第3接触
撮影 渡部勇人(三重県いなべ市)
写真:金環日食時のベイリービーズ
撮影 秋田 勲(京都府城陽市)
金環日食限界線研究会チームBの観測について

1.チームBについて
 金環日食観測チームBは、ベイリービーズの明滅の瞬間の時刻を正確に観測することを目的とします。 これは、星食の観測手法で月縁をものさしとして、太陽の直径を精密に観測する試みです。
  星食には、月が恒星を隠す星食や、小惑星が恒星を隠す「小惑星による恒星食」がよく知られています。 これらの現象において、恒星が消滅する瞬間,出現する瞬間の時刻を正確に計時することで月縁や小惑星の形状を精密に決定できます。 これを日食に応用する観測です。

2.期待される観測精度
ベイリービーズ明滅時刻の観測は、星食観測の原理と同じであり、ビデオによる観測なら小口径の望遠鏡においても 0.01〜0.02秒角もの高精度で月縁を決めることが期待できます。これは太陽の縁にしてわずか 7〜15km に相当するものです。
このベイリービーズの観測では、限界線付近はもちろんのこと、金環帯に幅広く観測者が分布することがより望ましいといえます。
月縁の地形は、日本の月探査衛星「かぐや」により誤差10mもの高精度で求められていることが相馬らにより確認されています。一方で意外と知られていないことに、太陽の半径は現在測定されている値でも 100km程度の誤差を含んでいるとされます。
国際天文学連合の採用する太陽半径 696,000km の値そのものが 1891年というかなり以前に求められたものです。仮に当時のこの値が十分に精度の高いものであったにしても、その後太陽半径は変化しているかもしれません。 今回の金環日食の観測は、太陽直径を高精度で求めることがゴールです。

○ 主な太陽半径の測定値
国際天文学連合の採用値(1891年 A.Auwers) 696,000km

他の論文による値
1998年 Brown & Christensen-Dalsgaard695,508km +/-26km
1999年 Tripathy & Antia695,770km +/-100km
1999年Calern CCD astrolabe696,120km +/-50km
2008年Solar Disk Sextant696,180km +/-70km
2008年 Michelson Doppler Imager696,040km +/-110km


図:ベイリービーズ観測のための機器構成例
GHS-OSD の代わりに固定電話の時報を録音すること
でも、ビデオのフレーム精度(1/30秒)を確保できる。
携帯電話は遅延があるために望ましくない。
ビデオ機器は旧来のアナログ(NTSC)信号によるものが
推奨される。
3.精密な観測のための機材と方法
図は、ベイリービーズの観測のための機器の構成例。 図中のGHS-OSD は、早水らの考案したGPS利用のビデオタイムインポーザーです。
※ 金星の太陽面経過もまったく同じ機器構成で観測できます。

a. 望遠鏡
口径は4〜8cm でよいでしょう。大きすぎる口径は危険を伴うので口径を絞ること。 太陽用の減光フィルターは対物側に付ける(プレフィルター)。適正な焦点距離はAビデオモジュールのCCDサイズと関連します。 定番のワテック WAT-100N(CCDサイズ1/2inch) 利用の場合ならば、焦点距離 400mm程度で画面にちょうど太陽が収まる大きさとなります。 ベイリービーズの観測では太陽が画角からはみ出しても構わないので、これより長い焦点距離でもよい。

b. 減光フィルター
可視光の減光フィルターを使用します。写真用のNDフィルターは色の偏りがなく良好です。 眼視用のフィルターを使用する場合には、色バランスの極端なものは避けて下さい。 減光倍率は、1万倍〜10万倍が勧められます。 天体用のビデオモジュールは高感度のものが多いため、1万倍の減光は最低感度に設定しても減光不足の場合が多いと考えられます。

c. ビデオモジュール
ビデオモジュールは、マニュアルでシャッタースピードやゲインを調整できることが望ましいです。 また、GHS-OSD のようなタイムインポーザを利用するためには、ビデオモジュールを使用する必要があります。
 岸本氏(須磨東高等学校)は、ビデオモジュールの代わりにハンディービデオカメラをコリメート法で接続する方法を考案しました。 この方法でもビデオ信号に遅延のないことが報告されています。 ただし、このような特殊な方法は、事前の実験により観測として使えるかを検証しておく必要があります。 これらのビデオ機器は旧来のアナログビデオ信号(NTSC方式)であることが望まれます。 現在では標準となったハイビジョンでは、映像が時刻方向にも圧縮されており、 十分に正確な時報を記録することが困難であることが最大の理由です。 また、ハイビジョンで撮影されたビデオの解析を行うためのツールもありません。 GHS-OSD等のビデオタイムインポーザも、ハイビジョンに使用することはできません。 記録するメディアはDVかVHSが推奨されます。また必ず、標準速度で記録して下さい。 2倍,3倍 等の記録モードでは解析することができません。

d. 時報
最も推奨できるのは GPSを利用した時計です。固定電話の時報でもビデオのフレーム精度の正確さがあり利用可能です。 携帯電話の時報,電波時計 等はビデオ観測で使用するには大きすぎる誤差の生じる可能性があり推奨できません。
GPS利用の時計には、GHS時計,GHS-OSD (いずれも筆者らの考案による機器)があります。
固定電話を利用する場合には、市販の電話ピックアップアダプタが便利です。 固定電話の利用は、観測する望遠鏡の近くまで電話を近づける必要があります。 固定電話の子機を使用する場合には、遅延がないかどうかを事前に検証しておくべきです。
時報はタイムインポーザーを併用すると解析の際に有用です。GHS-OSD はタイムインポーザー機能を内蔵しています。 単独のタイムインポーザーには早水による TIVi があります。

GHS-OSD に関する情報サイト

写真:太陽観測のビデオ画像の例
口径4.5cm 焦点距離50cm 屈折望遠鏡。
バーダープラネタリウム製太陽観測フィルターを対物側に装着。
ビデオモジュールWAT-100N。
GHS-OSD でタイムインポーズ。
4.撮影時の注意
(1) 露出
太陽の光球面は中心部に比して周辺部はかなり減光しています。 ベイリービーズに露出をあわせると太陽の他の部分では露出オーバーとなりますが、 観測の目的はベイリービーズの明滅の瞬間を記録することですから感度を十分高めに設定すること。

(2) 画面の向き
画像は北を上にすること。鏡像の場合は報告時に明記すること。

(3) 時報の確認
時報は、GPS時計の表示を過信せず、電話時報や電波時計など、複数の時報を使って確認すること。

(4) 事前のテスト観測
ぶっつけ本番ではなく、事前にテスト観測することを強く勧めます。 太陽を被写体としたテストはもちろんですが、月による星食や小惑星による恒星食を実際に観測することで、 星食観測の要領を体験することが望ましいと考えます。

○ 月による星食の予報
 星食観測日本地域コーディネーター 「星食観測ハンドブック2012」
○ 小惑星による恒星食の予報
 せんだい宇宙館 「小惑星による恒星食初期予報」
事前のテスト観測の結果は早水までお寄せ頂ければ解析します。

5.観測班
この観測は参加されるサイトが多すぎると、解析する側の負担が大きくなり、とても対応しきれなくなってしまいます。 このためチームは、星食観測のための十分な機材(特に時計装置)を所有し、確実なスキルのある方々で編成します。 布陣は、限界線付近に偏らない金環帯に配置すべきでしょう。
たいへん恐縮ですが、観測サイトは上記のようなことで一般に公募しないで閉じたコミュニティー内での募集としますことを ご理解をお願い申し上げます。

○ チームBの観測班(西から)
サイト名代表者観測地経緯度(世界測地系) 標高 観測映像
(WMV圧縮)
備 考 ベイリービーズ予報(※注)
相馬予報OCCULT
せんだい宇宙館早水 勉,安藤和真鹿児島県薩摩川内市 せんだい宇宙館観測室E 130o 20' 23.3" N 31o 49' 26.4" 248m      Prediction 2nd Contact
3rd Contact
小林西高等学校天文同好会河野健太宮崎県小林市小林西高校E 130o 57' 47.6" N 32o 00' 06.3" 227m      Prediction 2nd Contact
3rd Contact
宮崎大学山内 誠宮崎県宮崎市E 131o 24' 49.15" N 31o 49' 52.59" 26.2m   2地点 Prediction 2nd Contact
3rd Contact
E 131o 24' 49.29" N 31o 49' 52.49" 26.1m  
岡山商大附属高等学校畠 浩二香川県さぬき市 クアパーク津田E 134o 15' 33.7" N 34o 17' 03.1" 3m      Prediction 2nd Contact
3rd Contact
明石市立天文科学館井上 毅兵庫県明石市 明石市立天文科学館F16観測室 E 135o 00' 04.66" N 34o 38' 58.04" 70m      Prediction 2nd Contact
3rd Contact
兵庫県立須磨東高等学校 岸本 浩 兵庫県神戸市須磨区兵庫県立須磨東高等学校 E 135o 06' 23.2" N 34o 40' 54.0" 162m Graze Contact    Prediction 2nd Contact
3rd Contact
三田祥雲館高等学校 谷川智康 観測地(1) 兵庫県西宮市北六甲台 E 135o 14' 56.8" N 34o 50' 10.7" 267m Graze Contact  3地点 Prediction   
観測地(2) 兵庫県西宮市船坂 多目的公園 E 135o 16' 28.8" N 34o 48' 50.5" 360m Graze Contact Prediction 2nd Contact
3rd Contact
観測地(3) 兵庫県西宮市船坂 ふるさとの家 E 135o 17' 14.3" N 34o 48' 10.0" 386m Graze Contact Prediction   
NPO花山星空ネットワーク 山村秀人 京都市北区小山下内河原町 E 135o 45' 43.15" N 35o 02' 39.34" 70m 2nd Contact
3rd Contact
   Prediction 2nd Contact
3rd Contact
外村 一 外村 一 滋賀県大津市和邇公園 E 135o 55' 16.9" N 35o 09' 16.6" 96m Graze Contact       
渡部勇人 渡部勇人 三重県いなべ市 E 136o 33' 33.9" N 35o 07' 10.2" 92m 2nd Contact
3rd Contact
   Prediction 2nd Contact
3rd Contact
一宮高校地学部 高村裕三朗 愛知県一宮市 一宮高校 E 136o 48' 32" N 35o 17' 43" 16m 2nd Contact
3rd Contact
   Prediction 2nd Contact
3rd Contact
小和田稔 小和田稔 静岡県浜松市 E 137o 44' 23.0" N 34o 43' 07.0" 17m 2nd Contact
3rd Contact
   Prediction 2nd Contact
3rd Contact
渡辺裕之 渡辺裕之 岐阜県垂井町岩手 E 136o 30' 01.2" N 35o 23' 08.1" 76m Graze Contact         
赤津芳春 赤津芳春 長野県塩尻市広平出遺跡公園 E 137o 56' 34.9" N 36o 06' 15.3" 729m 2nd Contact
3rd Contact
        
上田創造館 渡辺文雄 長野県上田市 E 138o 13' 31.8" N 36o 23' 12.2" 472m Graze Contact         
長野工業高等専門学校 大西浩次,松井 聡 (高専A) 長野県長和町古町道の駅 E 138o 15' 27.0" N 36o 16' 21.5" 634m   5地点 Prediction 2nd Contact
3rd Contact
(高専B) 長野県小諸市飯綱山公園 E 138o 25' 20.78" N 36o 20' 24.21" 752m 2nd Contact
3rd Contact
Prediction   
(高専塩尻広丘吉田) 長野県塩尻市吉田小学校 E 137o 57' 19.5" N 36o 09' 55.7" 644m Graze Contact     maximum
高専塩尻広丘野村)長野県塩尻市丘中学校  E 137o 57' 51.6" N 36o 08' 44.7" 667m Graze Contact     
(高専三鷹) 国立天文台三鷹 E 139o 32' 01.5" N 35o 40' 33.4" 58m 3rd Contact    2nd Contact
3rd Contact
明治大学天文部是恒邦通東京都三宅島E 139o 32' 18.36" N 34o 03' 13.40" 2m      Prediction 2nd Contact
3rd Contact
高島英雄高島英雄茨城県笠間市あたご天狗の森スカイロッジE 140o 15' 01.73" N 36o 17' 18.95" 270m      Prediction 2nd Contact
3rd Contact
国立科学博物館 洞口俊博 茨城県つくば市 E 140o 06' 40.2" N 36o 06' 04.8" 40m 2nd Contact
3rd Contact
   Prediction 2nd Contact
3rd Contact
冨岡啓行 冨岡啓行 茨城県日立市 E 140o 41' 08.9" N 36o 38' 33.2" 33m 2nd Contact
3rd Contact
   Prediction 2nd Contact
3rd Contact
佐藤 信 佐藤 信 福島県下郷町野際新田 E 139o 55' 04.46" N 37o 11' 22.72" 910m Graze Contact         
郡山市ふれあい科学館近藤正宏,薄 謙一福島県郡山市喜久田町四十担E 140o 21' 32" N 37o 25' 38" 265m      Prediction maximun
比嘉義裕 比嘉義裕 福島県南相馬市北高屋釜 E 141o 00' 36.6" N 37o 41' 47.7" 2.4m 2nd Contact
3rd Contact
      2nd Contact
3rd Contact

※ 水色の網掛けは、観測に成功したサイトです。

(※注) ベイリービーズ予報について
・OCCULT の予報における第2接触と第3接触の基準は、平均月縁での接触です。月縁を考慮した限界線(相馬・早水予報)ラインの基準とは異なっています。
・相馬予報における月縁に示す角度は 北極基準位置角(北極方向角)です。
・OCCULT予報の月縁に示す角度は Axis Angle (月の自転軸を基準に反時計回りに図った角度)です。
今回の日食の際の月の自転軸の北極基準位置角は346.3°のため,北極基準位置角(PA)と Axis Angle (AA) とは「AA = PA + 13.7°」という関係があります。
・月縁の起伏を誇張しているために、太陽の曲率は逆向きになって示されています。


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(2012年7月28日 現在)



6.観測結果の報告
金環日食本番で観測を得ることのできたサイトは、せんだい宇宙館 早水まで、観測されたビデオを郵送して下さい。 早水にてビデオを解析します。解析可能なビデオのフォーマットは、DVまたはVHSです。 これらのビデオから直接生成された AVI形式の動画データでも可です。
ビデオの郵送の際には以下の情報を添えて下さい。

1.観測者氏名および氏名のローマ字標記
2.観測地および観測地の経緯度と標高,測地系
 経緯度は 0.1秒 の桁まで必要、標高は 1m の桁まで必要
3.観測開始と観測終了の時刻
4.観測機材
5.時刻保持の方法

○ 観測ビデオの送り先
〒895-0073 鹿児島県薩摩川内市永利町2133番地6
せんだい宇宙館 早水勉 宛

7.観測結果の評価と発表
(1) 観測結果の評価
早水にてビデオを解析し、そのデータを相馬(国立天文台)に転送します。得られたデータをもとに相馬にて整約計算します。
 観測地の経緯度標高と観測時刻が与えられると、月縁と太陽の縁の位置関係が計算できます。 月縁には「かぐや」によるデータが使われます。ビデオ解析から得られたベイリービーズの明滅の時刻をもとに 月縁と太陽の縁の位置関係を計算することで、そのベイリービーズがどの月縁の谷間で生じたものかが特定できます。 そのベイリービーズの理論的な明滅の時刻とビデオ解析から得られたものを比較することで、太陽半径への補正値が計算できます。 観測された全てのベイリービーズについて、太陽半径への補正値を計算し、それらを統計的に処理することで、最も確かな太陽半径の値を求めます。
(2) 発表
 得られた太陽半径の値はウェブサイト等で公表するとともに、信頼に足る結果が得られた場合には、学術論文としてまとめ、 世界の天文学研究者が参照する天文学術論文誌にて発表します。
 また、9月の天文学会(大分大学)では、なんらかの成果を発表することを目標とします。

8.資料
○ 北限界線付近におけるベイリービーズの月縁図(相馬による)
各地で見る食の最大の頃の月縁と太陽の縁の位置
月縁は実際よりもかなり誇張してあり、太陽の縁もそれに合わせて作図している。 このため太陽の縁の曲がり方が逆になっている。月縁は月探査衛星「かぐや」による観測値を採用している。
熊本県八代市徳島県三好市
  
兵庫県明石市京都府京都市
  
長野県上田市福島県郡山市

○ 金環帯内側におけるベイリービーズの月縁図(相馬による)
各地で見る第2接触・第3接触の月縁と太陽の縁の位置
月縁は実際よりもかなり誇張してあり、太陽の縁もそれに合わせて作図している。 このため太陽の縁の曲がり方が逆になっている。月縁は月探査衛星「かぐや」による観測値を採用している。
鹿児島県鹿児島市高知県高知市
  
大阪府大阪市愛知県名古屋市
  
東京都港区茨城県水戸市


■ チームB 世話人代表 ■
早水勉(せんだい宇宙館)
相馬充(国立天文台)
井上毅(明石市立天文科学館)

■ 関連のサイト ■
相馬充のホームページかぐやによる月縁を考慮した2012年金環日食予報
2012年 金環日食日本員会
せんだい宇宙館2012年5月21日 金環日食 メニュー